思考停止

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TWICEハイタッチ会 ごく個人的なレポート

チェヨン

 チェヨンはTWICEのメンバーの中で一番身長が小さい。客観的に彼女の体躯がどういう作りをしているかという問題は些細な問題のようで、実際に目の前にしたときの印象はそういう些細な印象の方に引っ張られてしまうが、「FANCY」活動時の髪の色をピンク色にし、刺激的なコスチュームに身を包んだチェヨンは体躯の小ささを気にさせず、文句なしにカッコよかった。最近は黒髪に戻したが、手首、耳の裏、腕、指にタトゥーを施した彼女の姿は、アイドルと一緒について回る「アーティスト」といういささか陳腐で奇妙な肩書を字義通りのもっともらしさで受け取らせるだけの説得力がある。

 消毒用アルコールを手にプッシュしてブースに入ると、上にも書いたが、座っていたというのもあり想像以上に小さく見えた。「赤ちゃん猛獣」という有名なチェヨンの二つ名はまさに言い得て妙で、リラックスしてブースで右手を差し出す彼女を見ると、今日ハイタッチする4人の中で一番最初にチェヨンを選んだことでこちらも肩の力を抜いてメンバーに会うことができる感じがして、安心感が心の底から湧いてきた。妙に媚びたりせず、自然体で、しかし本人の持つ愛らしさがよく伝わってくるハイタッチだった。私はチェヨンのハイタッチ券を2枚持っていたのでレーンを2周することになったが、2周目は私の前の番が小さい女の子だった。その女の子を見るチェヨンの視線が、とても暖かいものだったのをよく覚えている。

 

・ツウィ

 ツウィとハイタッチするのは2回目だった。今回は「Breakthrough」のハイタッチ会だったが、先月行われた「HAPPY HAPPY」で1枚だけ引けたのがツウィだった。それが初めて至近距離でTWICEのメンバーを見る体験になったわけだが、そこで私は、当たり前のことなのだが、ツウィを含めてTWICEというアイドルが「人間の顔」をしていたことに驚いた。顔が私の拳ほどしかないように思えるツウィが、つたない日本語で「ありがとうございます」と私に言ってくれたとき、テレビやスマートフォンで見ると彫刻のような顔立ちをしているように見えるツウィが、ちゃんと私と同じ人間の顔をしていることが嬉しい驚きだった。

 ツウィはごく最近髪の色と髪型を変えた。ずっと暗めの茶色か黒の髪色で、前髪を分けていた彼女が、青めのアッシュが入った金髪にして前髪を作った。もちろん前の髪色・髪型のツウィも好きだが、今のヴィジュアルのツウィは神話に出てくるお姫様のような趣さえある。チェヨンやツウィに限らず、K-POPアイドルは髪色の変化も楽しめる要素の一つだが、個人的にはツウィの変化はとても良い変化だと思った。ツウィを目の前にして、私は思わず息を呑んだ。とてつもない美形なのに、人間味があって、嫌みな感じが全くしない。前回のハイタッチとはまた変わった雰囲気のツウィのオーラに飲まれてしまい、すぐハイタッチしてブースを通り過ぎなくてはいけないのに1秒か2秒ほど足が止まり、スタッフに「立ち止まらないでください」と注意を受けた。美しいのに人間的なツウィの魅力を2度も味わうことができて、結構ラッキーだったと思う。

 

・サナ

 遡ること約半年、私は東京ドームで初めてTWICEを観た。豆粒のような本人たちの姿を3時間肉眼で凝視することはできなかったので、メインステージにある巨大なバックスクリーンに映った9人の姿に夢中になったのを、よく覚えている。コンサートの開始を飾る「One More Time」で、私は後述する推しのジヒョがどんな衣装で、どんな髪型で、どんな表情で登場するのかを今か今かと待っていた。ところが、ジヒョ以上に、というか9人の中でもずば抜けて存在感を放ち、目が釘付けになったのがサナだった。色白に金髪が映えるサナの圧倒的なオーラは、間違いなくスターそのものだった。サナ推しに怒られるかもしれないが、チッケムで見るとモモやジヒョに比べてサナのダンスはややぎこちなく見える。もちろん、アイドルのダンスがスキルや身体能力だけではないことは知っている。サナに目が行ってしまうのは、彼女の身振り手振り、佇まい、すべてに「選ばれしもの」のオーラがあるからだ。ツウィとはまた違ったオーラである。

 場内整理(迷子の呼び出しとメンバーの休憩)が1時間ほど続き、結構私は苛立っていた。サナのレーンで座り込み、暇つぶしでいじっていた携帯の充電も危うくなり、持ってきた本をパラパラとめくっていた。そんな訳で、チェヨンとツウィで勢いがついていた私の精神状態がみるみるトーンダウンしていたのも事実である。サナを目の前にした瞬間、私の抱えていたイライラや運営への不満はものの見事に吹き飛んだ。東京ドームで衝撃を受けたあのサナが、あのまま、はじけるような笑顔で私とハイタッチをしてくれた。今日のハイタッチで間違いなく一番楽しかったのはサナとのハイタッチだった。つやつやとしていて血色が良く、派手な金髪でありながらけばけばしい感じがなく、だからといってたとえ渋谷や新宿で1万人の女の子を一絡げにしたとしても全くかなわないと思わせるような、圧倒的なスター性を感じた。ツウィの人間的な美しさとはまた違った意味で、こんなに抜群のプロポーションを持ち、他の追随を許さないオーラをまとっていながら同時に庶民的な感じもするサナという存在は、9人それぞれがそれぞれの仕方で輝いているTWICEの中でも、ひときわヴァイタルである。

 

・ジヒョ

 ジヒョは私の推しなので、若干冗長になってしまう。

 ジヒョをめぐる私の情念や感情、欲望については、2つの記事を書いた今でも、やはりあまりうまく説明できる自信がない。歌番組でも、東京ドームでも、V LIVEでも、Instagramでも、いつも私はまず最初にジヒョを探す。もはや形骸化し、巷談の中で日常的に使われ、その特殊な意味を失いつつある「推し」という言葉の、最も真摯な意味で、私はジヒョを推し、欲望してきた。そこに理由がいるだろうか?1つ前のエントリで書いたことと重複するようだが、それを逐一言葉にすることに、私はあまり価値を見出していない。意味がないわけではないだろう。何事にも始まりはある。起点を明確にすることによって分かることはいっぱいあるだろう。でも、「好き」や、「かわいい」や、「美しい」といった形容を凡庸なものとし、特権的な情念の対象を形容する際に使われる「推し」という言葉自体に、我々アイドルファンは敏感にならなくてはならない。「なぜ」「どうして」推すのか、という問いではなく、「推し」とは何か、ということを、厳密に自分自身に問うてみるときがあってもいいし、それはアイドルファンに許された豊かな営みだ。「なんとなく」かわいいとか好きなのだったら、初めから推しを決める必要はない。私も9人のTWICEが全員好きだ。でも、均等に「好き」が割り振れるわけでもない。それどころか、「好き」という言葉には当てはまらない感情の機微を、ある一人のメンバーには揺さぶられてしまうことは、大いにあるだろう。長くなってしまったが、私にとってジヒョとはそういう人であり、「推し」であることは揺らがない。

 他のメンバーとは違った心境で消毒用アルコールを手にプッシュし、ブースに入った。私は、そこで目にしたジヒョの表情――つまり私の前の順番の人とハイタッチする彼女の表情――が、鮮明に脳裏に焼きついている。彼女の大きい瞳はどこも見ていなかった。口元は横に突っ張って歪んでいた。全体の印象として最も適している言葉は、「引き攣っている」というものだろう。その前にサナの躍動的な表情を見ていたというのもあるかもしれない。こわばった表情のまま、私はジヒョと、推しと、初めてのハイタッチをした。ジヒョは私の目を見なかった。ただでさえ短いハイタッチの時間が知覚できないほど一瞬に感じられて、ブースを出たあとは何が起きたのか分からなかった。塩対応、というものでもない。一瞬ではあったが、彼女の背筋は美しく伸びていたのを確認したし、やる気がないという感じでもなかった。幸い、私はジヒョの券を2枚持っていたから、急いでもう一度レーンに並んだ。2周目は、彼女は笑っていた。どうしようもなく引き攣っていて、目を合わせたけど私の遥か後ろを見ているようで、笑顔が貼りついていた。

 1周目と2周目との間に、場内整理がもう一度あった。1周目のどう見ても不自然な表情に心を乱されていたせいか、45分ほどだったがあっという間に感じた。スタッフから注意喚起があった。なんでも、ブース内でわざと手のひらにキスをしてからハイタッチをするファンが出たのだという。ジヒョがその嫌がらせを受けたのかどうかは、定かではない。しかし、言葉が出なかった。初めて至近距離で見た推しの表情は、正直言って自分の見たい表情ではなかったから。あんなにこわばって引き攣ったジヒョの表情を、私は見たことがなかったし、見たくもなかった。でも、推しに会えてよかったとは思った。私は煙草を一本吸って、幕張メッセを後にした。